傾聴は、人を癒し、勇気づける力をもっている

「傾聴」と聞いて、皆さんはどのようなことを思い浮かべますか?

心理カウンセラーの筆者は、大学院在籍中に傾聴の考えに触れ、そのときから傾聴の訓練を続けています。訓練のなかで分かったことは、傾聴は、人を癒し、勇気づける力をもっているということです。
「カウンセリング」と聞くと、カウンセラーがアドバイスする場と考える人が多いと思いますが、実際には、「良いカウンセラーほどアドバイスをしない」と言われています。つまり、カウンセリングでは、カウンセラーが話すよりも聴く方が、治療的である場合が多いということです。

「話を聴く」と言葉にすると、とても簡単なことのように思えますが、本当の意味での「傾聴」は、多くの人が想像するよりも、はるかに難しいことです。
傾聴とは、知れば知るほど、奥が深く、訓練に終わりはありません。人のこころに寄り添いながら話を聴くことは、繊細で奥深く、終わりがない行為なのです。

このコラムでは、傾聴になじみのない方に向けて、傾聴の基本的な考え方から実践の内容まで、お伝えしようと思います。

傾聴とは、相手の感じていることを一緒に体験するよう試みること

傾聴とは、相手の話に耳を傾け、相手が感じていることを一緒に体験するよう試みることです。

例を挙げてみましょう。
Aさんが「Bが転職したらしいんだよね」と話したとします。
あなたは「へぇ、そうなんだ」と返答します。

上記でも会話は成り立っています。傾聴では、さらにAさんが「Bさんの転職」という事実を受けて、どのように「感じているか」を想像していきます。

Aさんは、Bさんの転職をお祝いする気持ちだったのかもしれません。
あるいは、Aさん自身が転職に踏み出せないモヤモヤとした気持ちを抱えていて、Bさんをうらやましく思ったのかもしれません。
Aさんが、数ある日常の出来事のなかで、Bさんの転職を話題に挙げたということは、何かしら思うところがあるのでしょう。

Aさんは続けます。
「Bはさ、すごい頑張り屋なのに、Bの前の会社は社員想いじゃない気がして。転職できてすごいよかったと思うし、私も嬉しいんだよね」
Aさんの話をさえぎらずに聞いていると、Aさんの想いがでてきます。
あなたは「そっか、Bは確かに無理して頑張りすぎちゃうところがあるよね。僕も少し心配していたから、安心したよ」と言います。

「Bさんを心配していること、だからこそ転職を嬉しく思う気持ち」が、きちんとあなたに理解されたと、Aさんは感じるでしょう。
ここで、もしあなたが「いやでも、そもそもBもよくないよ。人の分まで仕事しすぎ」と言ったとします。
もちろん、あなたの意見をAさんに伝えるのは問題ありませんが、Aさんとしては自分の気持ちがあなたと共有されたとは感じられないでしょう。

人は皆、多かれ少なかれ「自分のことを分かってほしい」と思っています。
傾聴では、相手の「分かってほしい気持ち」を十分に受け止め、また、相手も「理解された」と感じることが重要です。

傾聴の基本「ロジャーズの3原則」をご紹介します

傾聴を知るうえで最も大事な理論は、アメリカの心理学者カール・ロジャーズが提唱した「ロジャーズの3原則」です。
ロジャーズの3原則は、傾聴の3つの構成要素を表しています。3つの要素「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」を、それぞれ詳しく解説します。

共感的理解(empathic understanding)

相手の話を、相手の立場に立ち、気持ちに共感しながら理解しようとすることです。

上記のBさんの転職の例のように、同じ出来事であっても、人の感じ方や考え方はさまざまです。その人の今までの人生の積み重ねによって、物事のとらえ方は形成されていきます。
自分の物事のとらえ方と相手のそれとは異なることを前提に、相手は出来事をどのように感じ、とらえているのかを丁寧に聞いていくことが重要です。

無条件の肯定的関心(unconditional positive regard)

自身の価値観は脇に置いて、相手がどのような状態であっても、受け入れることです。

例えば、話し手がモヤモヤとした気持ちを抱え、行動に移せずにいたとします。多くの聴き手は、モヤモヤとした気持ちが共有されたとき、聴き手自身がそのネガティブな感情に耐えられず、アドバイスを言ってしまうきらいがあります。
もちろんアドバイスが有用なときもありますが、まずは「自分がどう思うか」をそっと脇に置いて、相手がどのように感じているのかを一緒に味わうように努めてみましょう。

自己一致(congruence)

聴き手が、裏表がなく、自分の心に素直でいられている状態です。
必要以上によく見せるわけでなく、また自身を否定するわけでもなく、聴き手が自身のことを受け入れて、等身大の自分として、話し手のそばにいることが示されています。

これは、聴き手が、自身のことをよく知り、良いところも悪いところも含めて向き合うことによって、どっしりとした安定感や安心感、謙虚さが生まれてきます。傾聴は、そういった聴き手の人間性が問われる営みと言えるでしょう。

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