「パーソナリティ障害」を知っていますか?
このコラムにたどり着いたということは、周りの方に「パーソナリティ障害かもしれない」という方がいるか、あるいは「自分はパーソナリティ障害かもしれない」と考えられているのだと思います。
「パーソナリティ障害かもしれない」と気が付いたことは、それが自分だけの困りごとではなく、「他にも困っている人がおり、そういった人の対処方法を学べるかもしれない」と、希望をもたれるきっかけになることもあるでしょう。
このコラムでは、そうした「パーソナリティ障害についてくわしく知りたい」という方に向けて、その原因や対策、特徴を含めて、心理士の立場から、解説をしたいと思います。
このコラムを、パーソナリティ障害を知る手がかりにしていただき、そのうえでどのように克服していくかを模索していただければ幸いです。
パーソナリティ障害とは、「偏った考え方や行動のために、日常生活で支障をきたしている状態」
パーソナリティ障害は、一言で言うと、本人の考え方や行動が周囲のものとは大きくことなり、日常生活で本人や周囲が困っている状態です。
注意をしたいところは、仮にパーソナリティ障害と診断がついたとしても、あるいはパーソナリティ障害の傾向があったとしても、その人の性格が悪いわけではありません。
本人が周囲とは異なる考えをもっていて、それによって本人や周りが困っているのです。
同じ人であっても、接する人や置かれる環境によって、不適応な行動がでないこともあります。あるいは、周囲とは異なる考えや行動から、大きな成功を収める人も少なくありません。
パーソナリティ障害は、「困った人」というレッテルを貼られやすいのですが、本人の不適応な部分だけを見るのではなく、どうしたら不適応な行動が少なくなり、むしろその能力を活かしていけるのか、という視点で向き合うことが大切です。
一朝一夕には解決しないものではありますが、年単位で粘り強く取り組むことによって、本人なりの豊かなスタイルを確立されていく方も多くいます。
パーソナリティ障害の原因
「遺伝か環境か」という議論は、精神障害でよく聞かれるものです。
つまり、先天的に生まれ持ったもので障害が決まるのか、後天的に体験することで障害となっていくのかという議論です。
パーソナリティ障害においては、遺伝的要因、環境的要因が半々くらいで関係していると言われています。
幼少期の愛着形成
心理学では、環境要因において最も大事なのは、親との関わりだと考えられています。
赤ちゃんは、一人で生きる力がないため、困ったことがあると、大きな声で泣きます。
すると、母親が飛んできて、献身的に赤ちゃんの面倒をみます。このような「母性的献身」が愛着形成にとっては必要だと考えられてきました。
しかし、すべての母親が子供のことを献身的に世話ができるとは限りません。
母親は母親なりに一生懸命に世話をしていたのだと思います。ただ、結果的に、その献身が子供にとっては十分なものでないことがあります。
すると、十分な愛着形成がなされず、外界に対する信頼感や安心感が持てなくなってしまいます。
自己愛の傷つき
パーソナリティ障害は、さまざまな捉え方ができますが、自己愛が傷ついている状態と考えることができます。自己愛とは、「自分のことを、適切に自分で大切にできる力」のことです。
「自分を大切にする」というのは、自己愛が健全に育まれている人であれば、ごく自然に行っていることです。
一方、ある人にとっては、それがとても難しいことです。短期的見れば、楽になるかもしれませんが、長期的にみると自分や周囲を傷つけ、疲弊させる行動をとってしまいます。
この後にも述べますが、こうした自己愛の傷つきを、周囲の助けを借りながら、自分自身で癒すことによって、適応的に生きることを目指します。
余談ですが、親子関係というのは、カウンセリングにおいても最も多く取り上げられるトピックの一つです。
それほど多くの方が、悩み、考え、試行錯誤をし続けられてきたのだと思います。また、どんなに理性的な方であっても、親子関係になると客観的には捉えにくいものです。
客観的に捉えにくいものであるからこそ、事態を複雑にしている側面が多いにあります。
パーソナリティ障害の10の分類
ここでは、10のパーソナリティ障害をそれぞれ簡単に解説します。
なお、筆者は心理士であり、精神医学的な観点から診断をくだす医師の立場にはありません。DSM-5(精神疾患の国際的な診断基準を記した本)を参考に、簡単に示したいと思います。
心の癒しにつなげるための、理論上の整理としてご活用ください。
パーソナリティ障害は、3つのグループに分かれ、10のタイプに分類されます。
特徴:風変わりで独特な考え方をする
- シゾイドパーソナリティ障害
- 統合失調型パーソナリティ障害
- 妄想性パーソナリティ障害
特徴:感情の起伏が激しく、周囲を巻き込む
- 演技性パーソナリティ障害
- 自己愛性パーソナリティ障害
- 反社会性パーソナリティ障害
- 境界性パーソナリティ障害
特徴:自己主張が控えめで、不安が強い
- 強迫性パーソナリティ障害
- 回避性パーソナリティ障害
- 依存性パーソナリティ障害
シゾイドパーソナリティ障害の特徴
家族を含め、他者と親密な関わりをもつことに対して関心を持たず、根っから孤独を好みます。
感情表現が極端に少なく、自身の世界観やペースを大事にします。
統合失調型パーソナリティ障害の特徴
統合失調症に似ており、知覚が過敏で、思考が過剰に広がりすぎてしまうタイプです。
他者から見ると、風変りな印象を持たれることが多く、集団生活が苦手です。
妄想性パーソナリティ障害の特徴
他者に対する不信感が強いタイプです。「人は裏切るので信用できない」という強い信念を持っています。
傷つけられることに対して過敏で、恨みにとらわれると、相手を許すことができません。
演技性パーソナリティ障害の特徴
自分が注目されていないと落ち着かず、安易な方法で注目を得ようとします。
魅力的な外見や派手な言動がある一方で、その中身に乏しいことが多く、依存的な側面も持ち合わせます。
自己愛性パーソナリティ障害の特徴
自信があるように見え、堂々としています。他者に対して、特別扱いされることを求めます。
自分の成功のためには、他者の痛みに目もくれず、人間関係で敵を作りやすいタイプです。
反社会性パーソナリティ障害の特徴
社会的なルールを守ろうという意識が乏しく、他者に対する配慮や思いやりに欠けます。
自分の欲望を満たすためであれば、他者に危害が加わることを厭わず、犯罪行為を繰り返してしまう人もいます。
境界性パーソナリティ障害の特徴
白黒思考で、感情の起伏が激しく、見捨てられることに対して強い不安があります。
自傷行為やそのそぶりを繰り返し、周囲の人を巻き込む傾向があります。
強迫性パーソナリティ障害の特徴
完璧主義であり、完璧を目指すがゆえに自分や周囲を苦しめてしまいます。
他者からは「真面目すぎる」「頑固」といった評価を得ることが多いです。
回避性パーソナリティ障害の特徴
失敗や非難を極端に恐れ、行動することを避ける傾向にあるタイプです。
不安や緊張が強く、失敗を恐れることから、対人関係でも消極的になりがちです。
依存性パーソナリティ障害の特徴
「自分には能力がなく、他人に頼らないと生きていけない」という信念を持っています。
必要以上に相手の顔色を伺ったり、自己犠牲的であったりします。
パーソナリティ障害の治療方法
薬物療法や心理療法、グループ療法等、さまざまなサポートを組み合わせながら、治療の過程をたどっていきます。
通常、薬物療法は、「眠れない」「不安がある」といった具体的な症状に対して、薬を使って症状を抑えるものです。
原因でも述べたように、パーソナリティ障害の根っこにあるのは、自己愛の傷つきです。
目の前の症状を抑えることも大事ですが、それは氷山の一角に過ぎず、根っこの部分に目を向けることによって根本的な治療がスタートします。
自身に目を向けるために有効なものが、個人カウンセリングです。
個人カウンセリングは、精神分析的心理療法や認知行動療法、支持的精神療法等、さまざまなスタイルがあります。
どのスタイルでも共通することは、クライエント自身が、自身の考えや価値観をより深く理解をし、自身の希望と他者の希望、社会のルール等をうまく折り合いをつけながら生きていくにはどうしたらよいか、考えることです。
パーソナリティ障害は、一朝一夕には改善しません。不適応な行動を何度も繰り返すなかで、自身に想いをめぐらせ、自分も周りも幸せに生きる道を模索します。
パーソナリティ障害と言えば、岡田尊司先生の本がおすすめです
岡田尊司先生は、精神科医であり、パーソナリティ障害をはじめ、愛着障害や母娘関係等、多くの本を執筆されています。
専門家でなくても読みやすい本が多く、より理解を深めるためにおすすめです。
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文献
岡田尊司(2006).パーソナリティ障害がわかる本 「障害」を「個性」に変えるために.法研